私自身、長年にわたり日本の伝統文化に深く携わってきました。特に茶道である煎茶道黄檗売茶流 家元の経験を通じて、文化と伝統について多くを学びました。文化には「伝承文化」と「伝統文化」と云う二つの異なる概念が存在します。伝承文化とは、過去に行われたことを寸分違わず繋ぎ、忠実に次世代に引き継ぐという考え方です。他方、伝統文化とは、それまでの時代で培われたパフォーマンスを次の世代が、叩き磨くという作業を通じて、崩れたものを壊していく在り方です。そのうえで、残ったもの、壊れなかったものと時代の価値観を改め融合させ紡いでいくという考え方です。このように繋いでいくことを伝統文化と言うのです。故に、私が大事に思っているのは伝統文化で、伝承文化には大した興味がないのです。ところが、茶道の世界に生きていると、その伝承をしたがる人が多い。私は常に伝統を叩き磨きます。私が家元として活動をはじめた時にまず取り組んだのは「正座」の廃止です。従来の形式を守るだけではなく、時代に即した形で文化を広く進化させていく必要があると感じたからです。このように、私は伝統文化とはただ守り続けるのではなく、時代に応じ更新されるべきだと考えています。叩いても壊れない「本物」だけを残し、時代と共に発展する文化が本当の意味での伝統なのです。